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お昼ご飯の作り置きはツァイガルニク効果か否か?

2021.08.09

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絶賛テレワーク敢行中の皆さん、お昼ご飯を抜いてしまうことありませんか?

「だいぶ経ってから昼の休憩時間が過ぎたことに気づいたけれど、食事の支度が面倒でそのまま放置」

これは一人暮らしの私の同僚が話していたことです。もちろん、「夫婦でテレワーク」「ご両親と同居」など、家族形態によって在宅勤務の昼食事情は異なります。

テレワークが日常となって、私は作り置きをよくするようになりました。昼休憩を有益に過ごす時短テクニックだと思っていましたが、同僚の話を聞いて、食事の作り置きはツァイガルニク効果かもしれない、と思い至りました。

ツァイガルニク効果とは何か、おさらい。

ツァイガルニク効果とは、未完成になっている事柄が気になる心理のことで、ドイツの心理学者クルト・レヴィンと旧ソビエト連邦のブルーマ・ツァイガルニクによって提唱されました。この心理効果を利用して、意図的に仕事を途中で切り上げると、次に作業に戻るまでのスピードが増すだけでなく、仕事へのストレスも軽減されると言われています。コロナ禍でリモートワークが広まるなか、私たちは仕事の進捗や生活リズムを自分自身でコントロールする必要にせまられました。このコラムも“タスク管理”や“生産性向上”など、仕事の効率化について書くことが、やはり多くなります。

ツァイガルニク効果は、クルト・レヴィンの仮説をブルーマ・ツァイガルニクが実証実験することで証明されています。

レヴィンはあるカフェでウェイターの様子を見ていました。ウェイターは、未払いの注文と支払い済の注文とでは、未払いの注文内容はよく覚えていたのに、支払い済の注文の内容を覚えていませんでした。そのことから、『人は目標が未達の間は緊張感があり、達成されてしまうと緊張感が緩む』とする仮説を立てました。お客様の支払いがまだだった注文は、目標が未達だったために内容を覚えていた、ということですね。

ブルーマ・ツァイガルニクはレヴィンの仮説を2つのグループに課題を与えることで実証しました。Aグループは課題を完了させ、Bグループは課題完了前に切り上げさせたのです。課題終了後、全ての被験者に課題の内容を質問したところ、途中で課題を切り上げたBグループにいた人の方が、Aグループにいた人より課題の内容を約2倍覚えていたということです。

また、ツァイガルニク効果は、中途半端の度合いによって作用が違います。目標達成に近いとろこまでやって切り上げる方が、そうでないときより効果が発揮されると言われています。

無意識で使っているツァイガルニク効果

冒頭でテレワークのお昼ご飯事情について少し触れました。テレワークでなくとも、毎日の食事プランは頭を悩ませます。まして昼休憩の1時間の間に、メニューを決め、食材の下ごしらえをし、調理をして、食べて、片づける。これをしていると、ちっとも休憩になりません。一人分であれば億劫だし、家族分であれば分量が増えて大変です。夫婦ともにテレワークの場合は、食事の支度をする・しないでイライラや衝突の原因になることもあるでしょう。こうした事態を避けるために作り置きや下準備がしてあると、テレワーク中に昼食を抜いてしまうこともなくなります。これは、途中までできているという安心感や気楽さの他に、一部ツァイガルニク効果も含まれているように思います。実際のところ、私の場合は食事の支度をしなくちゃいけない、という面倒な思いで重い腰が上がらないということがなくなりました。

昼食の作り置きにおけるツァイガルニク効果について、既に議論がされているかは分かりません。しかし、私たちの身の回りには日常的にツァイガルニク効果を活用した例を見ることができます。

もっとも有名なのは、『続きはWebで』のコピーです。30秒のスポットCMでは詳細を伝えきれないことが、このコピーの生まれた理由ですが、やはり未完が気になる心理をうまくついた活用例であるといえます。同様に、漫画の連載やTV番組のCM、どちらも視聴者が「続きを知りたい!」と思う絶妙なタイミングでお預けになってしまいます。

SNSでは、LINEの恋愛術として、わざと返事を遅らせる“じらし”のテクニックが実しやかに囁かれています。

もちろん、ビジネス周りでも活用例がありますね。たとえば、何かの提案をする際に、意図的に“穴”を用意する方法。要は完璧でない未完の提案をするわけです。相手はツァイガルニク効果で未完の部分に注目し、その“穴”を指摘します。次のステップとして相手と協働で穴を埋めていくことにより、提案が通りやすいというテクニックです。

その他、商品の一部をサンプルとして提示する方法もツァイガルニク効果を活用した例ですね。

ツァイガルニク効果の活用と注意点

ツァイガルニク効果は数ある仕事効率化のテクニックのなかで、比較的やりやすいテクニックだと思います。ポモドーロテクニックと組み合わせることで、短時間の集中力アップに活用することもできますし、一日単位、数週間単位の業務に対しても取り入れやすく有効です。

一方、締め切り日が先の業務も少しでよいので取り掛かっておきましょう。そうすることで頭の片隅に存在し続け、本格的に取り組むときに躊躇がなくなります。アイゼンハワーマトリクスでいうところの『重要度が高い × 緊急度は低い』業務も、何もしないまま時が経てば、いつかは緊急度の高い問題として表面化します。今日、済ませるべき仕事に心と時間が奪われるのは当然ですが、緊急度が低く締め切り日が先の業務も、その内容の重要度によっては放置が許されません。ツァイガルニク効果を利用することによって、自分自身の意識下に顕在化させましょう。

※ポモドーロテクニック“…25分作業をして”5分休憩4回繰り返したら、”15分の中休憩をとるというもの。続けて作業する時間を制限し、休憩時間を短くすることで、集中力をとぎらせずに作業をする方法です。

最後にツァイガルニク効果とストレスについてお話しようと思います。ツァイガルニク効果は「続きが気になる」というストレスの一種だと言ってよいでしょう。つまり、ツァイガルニク効果の利用は人のストレスを利用することと同義なのです。よって、それと分かる程に頻用することは、おすすめできません。提案書に毎回“穴”があったら、相手は私たちを「もはやそういう人」だと結論づけるでしょう。いつも何かが足りない人と仕事をするのはストレス以外の何物でもありませんよね。

そして、もう一つ。途中で切り上げることが仕事の後回しになるようだったら注意が必要です。まれに「やらなければならない」という強迫観念から逃れるために、仕事を完遂しない(できない)場合があります。難しい仕事や大量の仕事だったようなときですね。逃れることによって一時的に安心しますが、状況は悪化するばかりでストレスを溜め込むことになります。

まとめ

ツァイガルニク効果は相手にも自分にもストレスを生むことで作用します。テレワーク中のお昼ご飯の支度はストレスですが、途中まで作っておくことで、取り掛かりやすくなり気分が楽です。仕事も『途中まで』の度合いを十分に見極めて、相手や自分のストレスにならない範囲で活用してみてはいかがでしょうか。