Column

ロクゼロコラム

ビジネスパーソン1UPへの道

「語彙力」が注目されるのは何故なのか。必要性と鍛え方を考えた。

2021.02.08

この記事をシェアする

動画配信サイトのコメント欄に「素晴らしい!(語彙力)」といった書き込みを目にすることがあります。閲覧した動画がどのように素晴らしいのかを表現したいけれど、適当な言葉が見つからず十分に伝えきれない、そんな自分に対して自嘲的につぶやくのです。最近の語彙力ブームを考えてみました。

最近よく耳にする「語彙力」とは何か

書店の陳列棚に「語彙力」をタイトルに冠したHowto本が並んでいます。就活生や社会人を対象にした内容で、それぞれの日常で必要な言葉遣いのスキルとして紹介されています。明治大学文学部教授の齋藤孝さんや、国立国語研究所教授の石黒圭さんの著書はそれぞれベストセラーになっています。

語彙という言葉はかつてからありましたが、ここに「力」をくわえて「語彙力」として注目がされ始めたのは、最近のことではないでしょうか。とくに、大人に向けた語彙力への喚起が今ほど流行した時期を私は知りません。

さて、ここで語彙力とは何かを整理します。

まず、「語彙」について。これは言葉の集まり、という意味です。「彙」には似たものの集まり、という意味があります。したがって「語」=言葉、「語彙」=言葉の集まりと言えるのです。例えば、地方による方言を「●●地方方言語彙」という言い方をします。ある特定の業種で使われる言葉の集まりも語彙ですね。私はITに疎く、「IT業界語彙」は、からっきし分かりません。

語彙は人によっても違います。年齢や性別、生活環境など語彙を形成する過程や条件が変われば、自ずと語彙の全体像も変化するということです。

次に、語彙力について。これは「たくさんの言葉を知っている」という意味でもありますが、それだけでは「語彙力」の説明として不十分でしょう。もし、「語彙力バトル」というゲームがあり、一つの言葉の意味を変えずに、別の言い回しでいくつ表現できるかで勝ち負けが決まるとします。この場合は多くの言葉を知っていることが必要です。しかし、仕事でもプライベートでも、私たちは誰かのために言葉を発します。その相手に対して適した文脈と表現で言葉を選んでいるか、語彙力はそれが問われます。つまり、語彙力とは言葉を適切に使える能力のことです。ただ、多くの言葉を知っているだけでは「語彙力がある」とは言いません。

語彙力が必要なのはなぜか

語彙力は、私たちの対外的な評価を確保するため、そして人間としての深みを増すために必要です。

2004 年開設の mixi を皮切りに、TwitterFacebookが日本に上陸しました。個人の主張を自由に発信できるSNSは、今や生活にあって当たり前のツールとして普及しています。私たちは、こうしたSNSやインターネットを媒体として、かつてない速度で言葉が変化していく様を目の当たりにしています。最新情報に敏感で情報化社会で立ち回るイメージは、活動的で好ましいものです。しかし、社会はそうしたコミュニティだけで成り立ってはいないところに問題があります。

私たちがコミュニケーションを取ろうとする相手の背景やコミュニケーションの場面は様々です。よって、なるべく多くの選択肢から相手と場面にあった表現を選べるにこしたことはありません。SNS上でカジュアルに使う言葉をビジネスの場面で用いたとき、どのように評価されるかは想像に難くありません。ビジネスマナーの研修で必ず敬語が講義されるのは、ビジネスの場面にふさわしい言葉遣いがあるからです。語彙とは言葉の集まりという意味でした。仮にSNS語彙という言葉の集まりがあるのなら、ビジネスパーソン語彙もあるのです。私たちは、ビジネスパーソンに適した語彙を身につけることで、会話の引き出しが増え、プレゼンテーション力や交渉力の向上につなげることができます。

また、ビジネスを離れたところで語彙を広げることも、ぜひ必要なことです。それは多くの言葉を知ることで、自分の感情の在り様に明確に意味づけができるからです。うれしい気持ち、落ち込んだときの気持ちの両方を「ヤバイ!」の一言で表現することもできます。その方が速効的に仲間に気持ちが通じるという利点もあるでしょう。しかし、どのようにうれしく、また、落ち込んでいるのか、この一つひとつに適確なラベリングをすることができれば、自分の思考の方向性がはっきりとします。自分という人間がどのようなことで揺り動かされるのかが整理されたら、少し暮らしやすくなりませんか? 語彙を増やす目的は、知的欲求を満たすことや知的水準を上げることだけではありません。多くの言葉を知ることで、豊かな感情表現と自己分析が可能になるのです。

どうしたら「語彙力」を鍛えることができるか

最後に語彙力の鍛え方をご紹介します。

  • 自分の話し方を把握して繰り返し使う言葉を把握する
  • 言葉の言い換えを習慣化する
  • 本や雑誌を読み、分からなかった言葉、気になった言葉をメモする
  • 様々な世代、コミュニティの人と会話をする

このほか、会社の先輩のメール文やプレゼン資料を参考にするのもよい方法です。しかし、まずは、自分が便利に使っている言葉が何かを把握しましょう。そして、別の言葉で表現できないかを調べてみましょう。よく使う言葉の言い換えができれば、一気に語彙の幅が広がります。次に、本や雑誌、テレビなどからも語彙を集めていきましょう。「語彙力を鍛える」という意識をもってメディアに向き合うと成果が上がります。「意識をもって」は大切です。これがないと、せっかくの情報も右から左で役にたちません。そして、今までの自分では興味を持たなかったであろうコミュニティの人との交流も語彙力を向上させます。自分の殻に閉じこもったままでは語彙は広がりません。また、広げた語彙を活用できなければ語彙力は上がらないのです。

まとめ

言葉はコミュニケーションの手段の一つです。つまり、語彙力を鍛えるということは、コミュニケーション力を向上させるということです。相手の立場に立ったわかりやすい言葉の選択、自分をよく知り、相手にも自分を理解してもらうための表現力。多種多様なコミュニケーションの手段がある現代だからこそ、語彙力を鍛えることが必要なのです。