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ロクゼロコラム

ビジネスパーソン1UPへの道

極小パーツ「てにをは」。その秘めたパワーを見直してみた。

2020.12.09

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SNSやチャットなど、最近は文字でのコミュニケーションが増えましたね。特にビジネスにおいては、意思のやり取りが形で残るのを理由に「電話よりメール」の習慣が浸透しています。10代、20代の若い世代は、スマホに電話がかかってくると身構えるのだそうです。身近になった文字でのコミュニケーション、今回は極小パーツの「てにをは」を見直してみます。

話しのニュアンスは、文章では伝わらない?

ビジネス上、少し込み入った話しをしなければならないとき、「これはメールより電話だな」という判断をすることがあります。相手を傷つけたり、怒りを買ってしまう可能性のある謝絶や価格交渉などがこれに該当します。ちょっとした言葉のかけ違いで、こちら側の意図が伝わらないかもしれない、そうしたリスクを避けたいときに、まず電話をしてお詫びの気持ちや事の経緯を納得いただきますね。その後、あらためてメールで意思を伝える、これが一連の流れでしょうか。

電話は、声のトーンや話すスピード、繰り返して使用する言葉などで、実際の文脈以上に話し手の気持ちが伝わります。たとえば皆さんは、多少たどたどしくても相手の誠意が伝わった、という謝罪を受けた経験はありませんか。立て板に水で流暢に詫びられるより気持ちが伝わるということがあるものです。

しかし、たどたどしい文章で謝罪をしても人間味が伝わるわけではありません。とくにビジネス上の謝罪文の場合は、日本語が間違っていると相手の怒りを倍増させてしまいます。テレワーク導入のため社内連絡はチャットで、という企業も多く、ビジネスパーソンの文字でのコミュニケーションが急激に増えました。誤解のない文章をサラっと書けるとよいですね。

夕飯「カレーでいい」と「カレーがいい」の顛末

「てにをは」には言葉同士の関係性をあらわす役目があります。下の文章を読んでください。

a.あなたは、この事業の目的を理解している

b.あなたは、この事業の目的は理解している

どちらも文章として成り立っていますがニュアンスが違いますね。aは目的と理解の構図がシンプルで、「あなた」の目的に対する理解に、何ら不足がないことを意味しています。しかしbの文章は「あなた」が目的以外の何かを理解できていない、あるいは目的しか理解できていない、と読み取ることができます。たった一文字の「てにをは」ですが、文章の意味を変えてしまうパワーがあるのです。このようにして「てにをは」に注目すると、正しい使い方かどうかが分かるのですが、以外に多くの人が上記のような使い方をしているのを見かけます。次は、よくある夫婦の会話です。夕飯のメニューについて話しています。

妻「今日の夕飯は何がいい?」

夫「ん~、カレーでいい」

あ~、恐いですね。奥様は何も言わず台所に立ちカレーを作るかもしれませんが、少し気持ちに歪みが生じたと思って間違いないでしょう。夫はどう答えるべきだったでしょうか。

夫「ん~、カレーがいい」。そう、「てにをは」を“で”から“が”に変えるだけで、奥様の機嫌を損ねない正しい回答になります。

代表的な「てにをは」を具体的にまとめました

「てにをは」は助詞の総称で、単語同士の関係性を表して文章に意味を加えます。日本語独特の品詞と言われていて、日本語を学ぶ外国の方にとって、「てにをは」の使い分けがとても難しいのだそうです。英語では前置詞が似たような働きをしますが、前置詞を間違ったところで、文章全体の意味が違ってしまうほどの影響はありません。極小パーツである助詞「てにをは」は、極小であることを理由に間違いが見落とされることがあります。じっくりと文章を見直す時間をとれないときには、注意が必要です。ここで代表的な助詞の用法をまとめました。

意思、可能、感情をあらわす「が」「を」

先の夫婦の会話がそうであったように、「が」や「を」は、はっきりとした意思や感情をあらわすことができます。

「~がしたい」

「~ができる」

「~が好きだ」

「~を好きだと思う」

などと使います。「を」は「が」よりも意思や感情を柔らかに伝えたいときに使用します。

場所をあらわす「で」「に」

「で」は人の意思や動作を、「に」は物や状態をあらわすときに使います。

「会議室で話す」「図書館で書く」

「〇〇にいる」「○○にある」

などと使います。どちらも場所に紐づいた助詞ですが、「で」を「に」に替えてしまっては文章が成立しません。

行先をあらわす「に」「へ」

「に」は目的地を、「へ」は方向を表します。

「富士山に登る」

「富士山へ行く」

「に」は明確に目的地がわかる文章です。この場合、きっと富士山の5合目か頂上が目的地ですね。一方で「へ」は富士山に向かうニュアンスです。家で山支度をしているところか、中央道をドライブ中でしょうか。

主語につく「が」「は」

主語やその動作を強調するのが「が」、客観的で他と区別するときに使うのが「は」です。

「彼が言う」

「彼は言う」

この2つの短い文章も「てにをは」が違うことでニュアンスが変わります。「が」は彼以外の誰かが話すことを度外視した文章で、「言う」にも特別な意味がありそうです。しかし、「は」を使った「彼は言う」は、彼以外の話し手がいることを匂わせ、「言う」は書き手との距離が感じられます。

まだまだ奥が深い助詞「てにをは」の世界

文章を見直していると「てにをは」の沼にはまり、なかなか先に進めなくなります。誤字脱字は明確な正解があるので誤りを見落とさなければ、校正の段階で比較的容易に正すことが可能です。しかし、「てにをは」は日本語として成り立っていても、実は筆者の意図と違っている、ということもあるので特段の注意が必要です。自分で書いた文章の場合は、「が」なのか「は」なのか、最適な助詞はどちらかを決めなければなりません。極小パーツでありながら、悩ましいのが「てにをは」です。ビジネスでもプライベートでも文字でのコミュニケーションが増えました。ちょっとした「てにをは」の違いで誤解をされたり、相手に違和感を与えるのは避けたいところですね。助詞にはまだまだ種類があります。もう少し詳しく知りたいな、と思った方は、『助詞・助動詞の辞典』(東京堂出版)や、『「は」と「が」』(くろしお出版)を取り寄せてみてはいかがでしょうか。それぞれの助詞の特性や使い方がわかりやすく説明されています。