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ロクゼロコラム

3分で読める社内勉強会の話

「知る」を「わかる」に変える対話型社内勉強会

2021.11.01

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古賀史健氏は著書『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』のなかで、ライターは「自分のあたまでわかったこと」しか書いてはいけないと述べています。ネットで何でも検索でき、やろうと思えば情報をコピペできる現代において、取材対象について多量的・多角的に調べぬいて、自分の言葉で考えられるようにならなければ、よい記事は書けないということです。この古賀氏の言葉、ライターに限らず、ビジネスパーソンにも共通していえることではないでしょうか。
(『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』:古賀史健著 ダイヤモンド社 20214月発行)

「知る」は楽しい、「わかる」は役立つ

研修講師には受講者の「知っている」を「できる」にすることが求められます。しかし、講師の言葉を通して知識を伝えることはできても、それが受講者の実力として発揮できるまでに講義を行うのは、とても高度な技術です。残念ながら、全ての研修でこの命題が実現できているかといえば、100%ではないでしょう。

一方で、プロ講師のプロたる所以は、知識や周辺情報をわかりやすく効果的に伝える技術を持っていることです。それにより、受講者はその日の研修テーマを前向きに捉えることができ、業務に生かすにあたっての気づきを得ることができます。

研修には企画意図があり、目的・目標があります。プロ講師の技術によって、受講者が研修の目的や目標を果たす重要性を理解するに至る、これが会社の提供する学びの場による「わかる」の姿だと思われます。

ここで、このコラムのテーマ「知る」と「わかる」について整理をしておきましょう。

■『知る』=なんらかの情報や直接の体験によって、その物事の意味内容・性質および適用範囲、是非善悪などを把握する

■『わかる』=頭で考えたり自分で経験したりして、正しい判断、理解が得られる

(出典:新明解国語辞典/三省堂)

「知る」と「わかる」は類義語で、どちらも多義動詞であるため、日本語を勉強する外国人にとって使い分けが難しい言葉の一つです。日本語学校の先生も、「知る」「わかる」を使うシチュエーションを提示しながら、誤解のないように丁寧に指導するのだそうです。しかし、はっきりと言えるのは、既知の事実について理解の度合いに変化があった時は「わかる」を使用する、ということです。新しい発見は「知る」、その後、物事の理解が進んだときは「わかる」を使うわけです。

研修に参加して新しい知識やスキルに触れたとき、私たちは、自分が変わるための何かを掴んだ気がして、気持ちが前向きになるものです。そして、職場に戻り、覚えた知識を業務に生かせたとき、知識が役に立ったことを実感します。研修における「知る」と「わかる」の違いについて、納得いただけたでしょうか。

「知る」を「わかる」にできる社内勉強会

有志運営の社内勉強会にプロ講師が登壇することは、まずありません。多くの勉強会が、社内講師やテーマに興味関心のある社員のファシリテーションによって運営されていることでしょう。その場合、プロ講師が行うような高度な進行をするのは、なかなかに難しいものです。では、社内勉強会の参加者は「わかる」までには至らないということでしょうか。そうではありません。

研修にはなく社内勉強会にあるもの。それは「対話」です。一般的に、社内勉強会の参加者は特定の階層に絞られておらず、年次に関係なく参加することができます。よって参加者の知見やスキルに差が生じます。実はこの差が参加者の率直な疑問や意見につながり、勉強会に対話を生み出すのです。その日の社内勉強会のテーマについて対話をしながら、疑問や意見を発信すること、その一つひとつが体験であり、知識やスキルを掘り下げる行為なのです。

もちろん、研修にもグループディスカッションがあり、参加者同士の対話は存在します。受講者はディスカッションに参加することによって考え方を整理し、他受講者からの同調や反論を受けて理解を深めます。講師によって統制された対話であることが社内勉強会とは異なりますが、これも理解を促す体験の一つです。

さて、冒頭でご紹介した『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』で、著者の古賀史健氏はライターのことを「空っぽ」と言い表しています。それは、作家や映画監督のように、確固たる創造の欲求や書きたいと思う世界観があるわけではないからだそうです。ライターは取材対象と対峙することによってはじめて、「空っぽ」だった発信欲が刺激され、「伝えたい」「共有したい」と思う気持ちが湧いてくるのだといいます。ライター自身の未踏の領域であった世界や人を取材することが、「知る」ということなのでしょう。そして、取材対象に興味を抱き、調べて勉強しながら「自分のあたまでわかったこと」に昇華して、原稿を書いていくのです。

まとめ

社内勉強会では「知る」ことができます。それが対話型の社内勉強会であれば「わかる」に変化させることができます。注意したいのは、「心理的安全性が確保されていること」「クリティカルな思考が受け入れられていること」の2つ。これらが守られている社内勉強会なら、参加者同士の対話は必ず活性し、応酬の一つひとつが体験となります。

対話をとおして当日のテーマを内省し、疑問や納得を繰り返すことで体験に替え、「知る」を「わかる」に変えましょう。きっと満足のいく社内勉強会になります。