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ロクゼロコラム

ビジネスパーソン1UPへの道

なぜか最近、踏ん張りがきかない人の処方箋

2021.10.01

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同僚と、ある資格試験の話しをしていた時です。彼は1級、私は2級資格を持っていました。ドヤ顔で自慢されたわけですが、彼はその資格を生かし、今も仕事に役立てています。私はといえば、周りに言われて仕方なく受験し、部署異動を幸いに嬉々として勉強をやめました。人は、本当に知りたいことでなければ、学び続けることは難しいものです。

探究心とは、何か。

皆さんは、「日本人の大人がいかに勉強をしないか」という話題を覚えているでしょうか。日本は「25歳以上の短期高等教育機関への入学者の割合」が先進国中で最下位でした(※)。また、仕事を持つ人が学習に充てる時間は一日平均6分間(※)という調査結果もあります。日本人の大人は勉強しないことを表すこれらのデータは、日本人は勤勉な民族だと教えられていた私たちにとって衝撃的でした。

更に、リクルートワークス研究所が202175日に発表した「全国就業実態パネル調査」によると、コロナの感染拡大をうけて、企業による集合研修や社員の自己啓発を促す取り組みが減少したこと、また、テレワークへの移行によって業務が単純化したことから、個人の学習意欲や学習の必要性が薄れ、2020年は2019年に比べて学習に関するすべての項目でアンケート結果が悪化しているといいます。
2016OECD調査結果※総務省統計局の「平成28年社会生活基本調査」

何を知りたいのか、なぜ知りたいのか。これは、私たちが学ぼうとする気持ちの出発点、動機です。いわゆる探究心。

辞書によれば、探究心とは、物事に興味をもち、追究しようとする心。事実の真の姿とは何かということを探り、見極めること。(新明解国語辞典/三省堂)とあります。

簡単にいうと、「知りたい気持ち」ということでしょうか。あるいは、その気持ちを発動させる心の動きそのものを探究心というのかもしれません。探究心が発動するか否かは、私たちの感性や心の活性度が大きく影響します。

小さなお子さんは、あらゆることに興味を持ちます。私たち大人が「なぜ?」と首をかしげるほど、同じことを何度でも繰り返して試します。たとえば、団子虫を追いかけ始めたら止まりませんし、目に入る全ての水たまりにバシャバシャ入っていこうとします。

私たち大人も興味のあるものに対しては、時間もお金も使って勉強しようとします。推しメンのことなら何でも知りたいし、蕎麦好きの人は、遠出をしてでも美味しいお店を予約します。蕎麦好きが高じて蕎麦打ちになる人も少なくありません。

自身の興味に誘発されて深く学ぶ気持ちが探究心であり、探究する心の筋肉を鍛えることで、生き生きとした日々を過ごせるのです。

探究心のある人とは、どんな人物か。

冒頭の、ある資格試験の話には続きがあります。

「今、勉強を再開したらどうなるか」と私は自問するのです。そして答えは分かっていました。「そんな体力ないな」です。

私が30歳半ばの頃でしょうか、本を読まなくなった母親を咎めたことがありました。向学心は何歳になっても持つべきだし、ニュースを見聞きするだけでは世の中のことは分からない、と。母が本を読まなくなった理由は単純でした。年を重ね、小さな文字を読めなくなったというのです。それは、新聞でもエンターテイメント性の高い推理小説でも同様で、ページをめくる気力が続かないのだと言います。

今、私は当時の母親の気持ちがよく分かります。このコラムはWordで作成していますが、表示の拡大率は170%です。さらに白状すると、オンラインミーティングで画面共有される資料は文字が小さくて見えていません。

一方で、だから本を読まない、ということではありません。見えにくい文字を読むのは大変で、読もうとする強い動機を要します。それでも、知りたいテーマの本は目を本にこれでもかと近づけて読んでいます。

たしかに視力やら記憶力やらは、自覚できるほどに低下しました。注意力も散漫で資格試験の勉強は厳しい気もします。しかし、読みたい本なら無理にでも読むように、知りたい気持ちや強い動機があれば、勉強も可能なのかもしれません。ようは探究心があるか、ないかの問題のように思います。

では、探究心のある人とはどのような人でしょうか。

①興味関心の幅が広い

あるテーマに関心を持って調べると、別のエピソードに行き着くことがあります。関連情報に数珠つなぎに関心をもつことが標準思考となり、興味関心の幅が広がります。

②情報収集に余念がない

知りたいテーマは関連する様々な情報と併走しています。拘りをもって探究するテーマが、社会のあらゆる事象と繋がりがあることは世の中の真理です。

③ものごとの本質にこだわる

探求心旺盛な人の指向性として、テーマを深掘りして本質を追究しようとする傾向があります。周辺情報を得ながら徐々に本質に近づこうとします。

④行動力がある

必要な情報のためなら、とてもアクティブです。蕎麦好きの話しばかりで恐縮ですが、関東在住の知人が、蕎麦を食べに佐賀県唐津まで行ったことは忘れられません。

⑤夢中になることができる

社会人となれば、私情より優先すべき事柄があり、雑事に追われ一つのテーマに拘る時間は少なくなります。その少ない時間に勉強をしたり調べものをしたりできる人は探究心のある人です。

探究心を高める方法とは

年を重ねても、そして若い皆さんであれば尚のこと、知的探究は社会生活に役立ちます。

人生の目標を立てるには、自分がどうなりたいのか、得手不得手や好き嫌いを見極めなければなりません。就職試験や資格試験の受験も、本気で合格したいという動機が必要です。ビジネスパーソンなら、顧客情報や業界情報、自社商品を知ろうとする気持ちがなければ、思うような活動ができないでしょう。

つまり探究心は、社会生活を送るうえでの内発的動機付けなのです。

動機付けには“内発的動機付け”と“外発的動機付け”があることは、皆さんご存知のことと思います。どちらか一方が優れているというものではありませんが、内発的動機付けは外発的動機付けより長く作用すると言われています。人生や受験勉強や業績のように、長期の挑戦が課される事柄に対しては、やはり内発的動機付け、すなわち探究心が欠かせません。

最後に、探究心を高める方法についてまとめてみました。

タイムマネジメント力を上げる

世の中の情報に触れて探究心の種を見つけないことには、勉強のしようがなく夢中にもなれません。雑事や仕事に追われているなら、まずタイムマネジメント力を強化して、自分のための時間をつくり、情報を収集しましょう。

現状を素直に受け入れる

私たちは大人になるにしたがって言い訳が上手になっていきます。自分を守るために“知らない”“わからない”を正当化しようとするのです。いつか自分にも嘘をつくようになると、「知りたい」という気持ちが湧かなくなってしまいます。

ロジカルな思考を身につける

ロジカルシンキングはビジネスパーソンに人気の思考術で、問題解決や課題発見に利用される多くのフレームワークがあります。日常生活にwhyツリーやHowツリーを取り入れることで、探究の訓練になります。

アウトプットを増やす

ためしに映画の評論を書いてみてください。何度も「なぜ、そう感じたのか」の自問を繰り返すことになるでしょう。答えを見つけるには、監督の生い立ちや経歴、撮影技法などを調べなければならないかもしれません。誰かに分かってもらいたいとき、人はものごとを深掘りして伝えようとします。アウトプットの機会が増えれば、自ずと探究心が鍛えられます。

まとめ

一人の大人として日々を豊かにする方法はきっとたくさんあるでしょう。探究心はその方法の一つであり、原点かもしれません。仕事、勉強、趣味、家族との日々、何に対しても探究心があれば、コミュニケーションや行動、心の活性など、生活の幅が広がります。ものごとに拘り過ぎるのは厄介ですが、生き生きとした探究心をもって生活したいものです。