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ビジネスパーソン1UPへの道

“効率”と“効果”が相反する、今こそ手書きの力を見直そう!

2021.04.12

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各地にある文学館では、ゆかりの文学資料が常設展、企画展で紹介されています。明治文壇作家の貴重な手書き原稿が展示されることがあり、その多くが当時の筆記用具「万年筆」で書かれています。本好き、小説好きの私は、そんな有名作家にあこがれ密かに万年筆を愛好し続けています。手書き、万歳!

近年、「書く」行為が見直されています

近年、世界的に万年筆のブームが続いていることをご存知でしょうか。万年筆の国内メーカーである「プラチナ」は、この10年で販売本数が倍増しているといいます。技術革新によって手書きからキーボード入力、音声入力と、文字を起こす道具は変化しました。そんな時代の流れに逆行するようになぜ、今、万年筆なのでしょう。

一つには懐古趣味という側面があります。大正ロマンやレトロフューチャーなどの懐古趣味は、デザイン性を基軸に情緒的な刺激が求められてのものです。(万年筆で言えば、インクボトルの形状やインク色のネーミングを抒情的に売り出したことが功奏し、「インク沼」なる別の流行も生まれています。)

そして、もう一つは、「書く」行為そのものを見直す流れです。キーボード操作に慣れると、平仮名50音を打ち込むのに15秒もかかりません。一方で手書きでは25秒前後かかるでしょう。スピードが重視される現代にあって、「書く」作業の何が見直されているのでしょうか。

手書きで思考力は上がるのか?

手書きで文字を書く際、「ちょっと緊張する」ということがあります。それは、限られた紙面にきちんと記入できるか、間違いなく書き終えることができるか、文字は読みやすく書けているか、など気をつけるべきポイントが幾つもあるからです。パソコンで文字入力をすれば、漢字変換や予測変換はもちろん、参考文書をコピペして使用することも可能です。間違いがあっても簡単に修正ができ、文章体裁を一括で整えることもできます。パソコンでの文字入力は手書きに比較して、だいぶ気が楽です。一方、手書きは様々な配慮が必要です。手書きとパソコン入力とでは、文字を書く際の思考量に大きな差があるのです。

手書きが思考力を育むかについて、脳の働きという切り口で数値化して証明することは難しいと言われています。しかし、手書きでノートをとった学生はキーボードでノートをとった学生に比べてテストの成績が良く、その情報も長く記憶に留めていた、という研究結果があります。手書きに関する報告は、概ね思考力、記憶力に対する手書きの良い影響を示すものなのです。

※アメリカ・プリンストン大学とカリフォルニア大学の共同研究

文字を書くとき、脳は、側頭葉の記憶、小脳の運動調節、後頭葉の視覚、頭頂葉の視覚認知や触覚、そして、これらの情報を統合して推理・判断を行う前頭葉、など複数の領域が同時に活性しています。今や文書作成には非効率な手書きですが、思考力や創造性を強化するために、急がば回れ、手書きで文字を起こしてみるのも一考です。

何を手書きするか、それが問題だ

手書きが脳の活性に有効とはいえ、コロナ禍の現在、「手書き書類に印鑑を押印して提出」のルールを、「データ入力して提出」に変更した企業もあるでしょう。手書きのデメリットとしては次の5点を挙げることができます。

①書く作業そのものに時間がかかる

②正式な文書であるほど誤字脱字が許されず、書き損じがあった場合は書き直す必要がある

③文字が読みにくく、内容が伝わらないことがある

④体裁を整えにくい。また、グラフや表などの表現に向いていない

⑤文書の共有が限定的で、許可承認に時間がかかる

作業スピードが求められタイムロスを防ぎたい作業を手書きで行うには無理があり、今のところ、パソコンを使用したキーボード入力が最善です。では、何を手書きするとよいのでしょうか。

“効率”と“効果”の間で

上記のように、効率を重視すると分の悪い手書きですが、記憶の定着や整理、脳の活性には効果を発揮します。ここでは、手書きの有効性が担保されるツールと思考法をご紹介します。

バレットジャーナル

バレットジャーナルは手書きのタスク管理の方法で、1冊のノートに予定、Todo、日記、アイデア、メモなど複数の機能を集約して管理するものです。複数機能であることによって、予定やTodoを書き出すときに、ふと過去のアイデアや思考に触れ、新たな発想や問題解決法に繋げることができるといいます。

バレットジャーナルの特徴の一つとして完了しなかったタスクを翌日のノートに再度書き直して記すルールがあります。そうすることにより、毎日残ってしまうタスクに注目がいき、本当に必要なタスクは何か、「やりたいこと」と「やらねばならないこと」の区別がつくようになります。また、短期的なタスクだけでなく、将来のために今しておくとよいこと、いわゆる夢への種まきにも有効で、人生という限りある時間を有効に使うことができるようになるといいます。手書きのノートはコピペができません。毎日、毎日タスクを一から書き出すのは、いかにも効率が悪いですが、効果は高いのです。

 

ジャーナリング

ジャーナリングはマインドフルネスの一種で、「書く瞑想」といわれています。今、ここに集中する感覚を身につけようとするマインドフルネスですが、その実施方法である「呼吸法」や「瞑想」には一定の技術が必要です。一方でジャーナリングは、幾つかのルールがあるものの、誰でも手軽にマインドフルネスの効果を得ることができます。

ジャーナリングの基本は「思い浮かんだことを書き出す」のみです。書き出す時間と量は自分で決めてよいとされています。誰にも邪魔されないプライベートな環境でペンを持ちましょう。テーマはあった方が書きやすく、また、テーマに工夫をすることで内省効果が高まります。たとえば、下記①~④のテーマ例なら、自分のこだわりや執着が整理できますね。

①今、意識していること

②今、つらいこと

③今、楽しいこと

④今、怒りを感じること など。

ここで注意したいのは、書き出す内容を誇張しないことです。ジャーナリングで書き出した文字は誰の目にも触れないのですから、大袈裟に盛ったり、逆に控えたりすることに意味はありません。

もう一つの注意点として、書き続けることが挙げられます。ジャーナリングはマインドフルネスの一種であり、書く行為を集中的に行うことに意味があるためです。書くことがなくなれば、その通りに「書くことがない」と書き出してしまいましょう。誤字や文脈を気にする必要もありません。また、テーマから逸れてしまってもよいのです。思うままに書き続けましょう。

書いた内容を振り返ることによって、自分の気持ちに気づき受容できたり、悩みが整理できる効果があります。無用に自己否定を繰り返すことがなくなり、自己認識の一歩となるのです。このようにジャーナリングは自分を深く知る一助になりますが、単に気持ちを吐き出す場であってもかまいません。書くことによって集中し緊張がほぐれる、ただそれだけでもよいのです。

まとめ

コロナ禍で面会にいけなくなった叔母に宛て、手紙を書くことにして、もうすぐ1年が経とうとしています。私の日常をつらつらと書くわけですが、zoomの話をしたところで叔母にはピンとこないでしょう。叔母が読みやすいように大きく濁りのない文字であるように気を配り、便箋に分かりやすい内容を間違いなく書いていく注意が必要です。結構気を使いますし、時間がかかります。文字を書くことを好きだと思っていた自分でも、この原稿はPCにキーボード入力をしています。日頃から意識をしないと手書きの選択は減っていくばかりです。効率と効果を見極めて、手書きの機会を維持していくつもりです。